2016年7月1日金曜日

池辺 陽「立体最小限住宅」

立体最小限住宅

設 計 池辺 陽(いけべ きよし|1920.4.8 - 1979.2.10)
建築年 1950 : S25年
規 模 47㎡(14.2坪)
所在地 東京都新宿区

積極的に吹き抜けを取り入れた戦後初期の住宅


ラジオからは、美空ひばりさんが歌う「東京キッド」という最近流行している軽快な曲が流れています。山口淑子さんの「夜来香」も好きですけども、この「東京キッド」や笠置シヅ子さんの「買物ブギ」などはなんだか心がウキウキして、最近お気に入りです。

1階平面図

「このお住まいは少し小さくありません」
新築前に設計図を見せていただいた時、一度だけ池辺に尋ね他ことがあります。
「今年、新たに設立された住宅金融公庫で面積の上限があってな、1戸建て住宅は50㎡以下に制限されている」
「あらそうなの」
「建築家の私としては、この住宅不足、物資不足の中1、日でも早い住宅復興を目指したい」
「それは、立派なことですわ」
「小さな家でも、広々と心地よく暮らせると同時に、無駄を省くために建築資材を工業化して、廉価で高品質の住宅を建てたい。そのためにも自宅でそれを実証したいと考えている」

そう言っていた主人は、この家に「立体最小限住宅」と名付けたようです。最初「立体」という意味が理解できなかったのですけれど、初めて完成した自宅に入った時に、家全体が一部屋であるように、1階から2階までつながる大きな吹き抜けに驚き、その意味を理解しました。
吹き抜けのおかげで狭さは感じず、夏場はよく風が通り抜けて心地よいです。わが家を訪れた方も、1階から2階まで繋がった本棚があるこの吹き抜けと、お手洗いがお風呂場と一部屋になっていることに目を見張っているようですね。

玄関土間が無いので、雨が降った時などは、泥が室内に持ち込まれてしまうのは使いにくいですね。一時的には玄関戸近くに大きな雑巾でも置いておこうかなと考えていますが、住宅は、生活に合わせて自由に増改築をすれば良いと考えている池辺のことですから、近々今の玄関戸前のポーチ部分に玄関を増築してくれることを期待しています。

今のところ、靴脱ぎ場には困ったものですが、宅の池辺は家事労働に関しては理解が深く、主婦が動きやすい設計をしています、あら手前味噌でしょうか。家事の中でも、まだお風呂は薪で焚かなければならず、風呂焚きはもっとも大変な重労働の一つですから、台所に近い焚口のはとても助かりますし、流し台につながっている食卓も、調理してすぐに食卓に並べられるのは便利です。このような家事動線は、池辺が設計する住宅に共通しているようですわ。

家事といえば、一昨年三洋電機さんから、なんでも噴流式洗濯機という電気自動洗濯機が発売され、今年は巻式水流式の電気洗濯機が発売されるそうです。主婦の間では家事労働がとても軽減されると、月産1万台売れているそうです。でも、一昨年発売された噴流式洗濯機のお値段は28,500円、それまで販売されていた丸型攪拌式洗濯機の半値近くといえども、昭和23年総理大臣の給与が25,000円、小学校教員の初任給が2,000円と、まだまだ一般家庭にとっては高嶺の花ですし贅沢品です、そんなに早く一般家庭に普及することはないでしょうから良いのですが、もし購入できるようになれば、電気洗濯機をどこに置こうかしらと期待を膨らませています。

2階平面図

物資の配給制は、昭和22年から順次撤廃されています。家庭内には収納しなければならない物も少なく、今はそれぞれの部屋にはある程度の収納を設けてあり、新築当初は問題はありません。ただ、主人の仕事上書籍が多く、階段室と子供室の間の壁を利用した、吹き抜け一杯の書棚は、多くの書籍を所蔵する主人ならではの設計です。


戦後の住宅難を解決するために、主人池辺はいろいろな提案を自身で確かめようと新築されたこの家では、戸惑うところもありますが、とても生活に根ざして設計されていると感じつつ、日々を過ごしています。

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